大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4981号 判決
原告
村田行雄
被告
金成萬
第一 主文
一、被告は、原告に対し、一、四六一、〇五五円および内金一、三〇一、〇五五円に対する昭和四一年九月二八日から、残金一六〇、〇〇〇円に対する昭和四三年一月一三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
第二 原告の申立て
被告は原告に対し、三、四九九、〇二七円およびこれに対する昭和四一年九月二八日(本訴状送達日)から支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。との判決ならびに仮執行の宣言。
第三争いのない事実
一、傷害交通事故発生
とき 昭和四一年一月二八日午後七時三〇分ごろ
ところ 大阪市東成区南中本町一丁目三三番地先交差点
事故車 (1)普通貨物自動車(大阪四す六一四〇号)
(2)第一種原動機付自転車
運転者 (1)訴外金武雄(被告の使用人)
(2)原告
受傷者 原告(当時三三才)
態様 北から西に右折中の(1)車と西から東に直進中の(2)車が接触し、転倒した原告が受傷した。
二、原告の損害てん補 計三二〇、〇〇〇円
(1)生活費として二〇、〇〇〇円(被告支払い)。
(2)自賠責保険金三〇〇、〇〇〇円。
第四争点
(原告の主張)
一、被告の責任原因(自賠法三条)
被告は(1)車を含め数台の貨物自動車を購入して土建業の下請けをしているもので、その使用人たる訴外武雄は自動車運転手として被告の業務たる砂利運搬の仕事に従事中前記事故を起こした。
二、原告の損害
(1) 受傷部位・程度
頭頂部陥没骨折、右前膊・右腰部・右膝部挫傷ならびに右脛腕症候群により加療約八ケ月(うち入院四五日間)を要した。
(2) 数額 合計 三、八一九、〇二七円
(イ)療養費等雑費 六八、九七五円
(ロ)逸失利益 計二、八一五、〇五二円
(A)事故当日から昭和四一年九月一一日までの休業損
七二四、六五七円
家庭用医薬品行商(富山の薬売り)に従事しているものであるが、昭和四〇年度の集金額は合計一、九二一、三〇〇円で、仕入れ代金や交通費等の経費は七六一、八三七円であり、その差額一、一五九、四六三円が純益であつたので、この割合による休業損を算定した。
(B)昭和四一年九月一二日から三〇年間の分
二、〇九〇、三九五円
こんごも頭部外傷ならびに脛腕症候群の後遺症のため、就労可能三〇年間を通じて労働能力はすくなくとも一〇パーセント減退したので、前記年間純益の一〇パーセントを三〇年間にわたり失うものとし、その現価を年利五分の年ごと式ホフマン法により算定した。
(ハ)慰謝料 五〇〇、〇〇〇円
頭頂部陥没骨折については整形外科手術を受け、いちおう外科的に回復したものの、こんご外傷注てんかんが誘発されるおそれもあり、脛腕症候群(むち打ち症)はいつ消失するか見当がつかない。情操不安定、計算能力・記憶力減退、四肢のしびれ・無感覚・脱力感等後遺症はきわめて複雑で説明できないほどである。持家を得て着々と築きつつあつた生活設計は完全に破壊された。
(ニ)弁護士費用 四三五、〇〇〇円
三、本訴請求
以上損害合計額から前出てん補額を控除した三、四九九、〇二七円およびこれに対する前記遅延損害金。
四、被告の主張に対する反論
(1) 過失相殺について
訴外武雄は幅員八メートルの道路からT字型(純然たる四差路ではない)に交差している幅員一八・三メートルの道路に進入するに際し、優先道路を通過しようとする自動車のライトを認めながら、一たん停止するどころか、かえつてその鼻先を通過することにのみ気を奪われ、ライトをつけて走行していた原告運転の(2)車(同車は右自動車のライトの前方を走つていたのであるから照明によつて容易に発見できたはずである)の存在にさえ気づかず、車体前部に接触感を感じてはじめて(2)車の存在に気づくほどの不注意さであつた。これに対し、原告は優先道路をごく自然に走行していたのであるから、過失相殺の見地から考慮に値する不注意さはまつたくない。
(2) 一六〇、〇〇〇円の治療費等について
無支払いがなされたことは争わないが、原告の本訴請求にかかる療養費は病院に支払う費用以外の経費で、原告がみずから支出し被告から弁済を受けていない分である。
(被告の主張)
一、免責自由と過失相殺
訴外武雄に運転上の過失なく、本件事故は原告の過失により発生したものである。
当時あたりは暗く雪が降つていたのであるが、訴外武雄は不正十字路を北から西に向けて右折するため、あらかじめ方向指示器を出し、ブレーキを踏み徐行しながら(時速約一〇キロ)ハンドルを右に切り、一たん停止して右前方を確かめたところ、西方から東進してくる自動車があつたが十分の距離があつたので右折進行し、ほとんど十字路中央部右折点に出たとき(旧市電軌道に前車輪が乗つたとき)車体前部に接触音を感じ、ブレーキをかけてただちに停車したものである。
これに対し、原告はライトをつけず、飲酒のうえ速度を加速し、かつ(1)車を認めながらその右折の直前を通過することができるものと軽信し、通行区分に違反し大きくまわつて(1)車の前を通過しようとしたもので、これらの過失により本件事故を起こし、かつヘルメツトをかぶつていなかつたため受傷したものである。
二、弁済
被告は原告の冶療費その他の費用として一六〇、〇〇〇円を支払つているので、これも本訴請求額から控除すべきである。
第五証拠〔略〕
第六争点に対する判断
一、被告の責任原因(自賠法三条)
〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められ、反対の証拠はたやすく信用しがたい。
(1)本件事故現場は、幅員一八・三メートルの東西車道に、南北道路がまず北から幅員八メートルで交差したのち、やや西にずれて幅員六メートルとなつて南に通ずる変型十字路内であり、東西車道の中央部に幅員六メートルの旧市電軌道敷が残つていたが、その両側はアスフアルトで舗装されており、前方および交差道路に対する見通しはよかつた。
(2)訴外武雄は、おりからの雪の中を被告の業務のため(1)車(以下被告車という)を運転し、北から南進して右交差点を西に右折すべく、交差点手前で時速約一〇キロメートルに減速しハンドルを右に切りながら進行中、右方約二五メートルに東進してくる自動車のライトを認めたが、自車が先に右折できると判断して交差点に進入し軌道敷に乗りかかつたころ、自車前面に接触音を感じたのであわててブレーキをかけ停車してみると、自車の前方に原告の運転してきた(2)車(以下原告車という)が右に倒れており、その東方に原告が転倒しているのを認めた。
(3)原告は少量飲酒のうえ原告車を運転し、前照燈で前方を照らしながら車道左側を東進中、左側道路から交差点に進入しようとしている被告車を認めたが、自車に進路を譲つてくれるものと判断し漫然進行を続けたところ、予想に反し被告車が自車前方に進出してきたので危険を感じ、ブレーキをかけ右にハンドルを切つたがおよばず、自車左側に被告車前面が衝突した。
以上認定の事実によると、被告車運転者の訴外武雄は、原告車の左側に衝突するまで同車の接近に気づいていないことが明らかであるところ、同訴外人が十分右方を注意していれば、原告車はその後方から東進中の自動車のライトの中に浮かんで見えたはずであるから、原告車の接近にまつたく気づかなかつた訴外武雄には、自動車運転者が右折にあたり当然なすべき右方の安全確認義務を怠つた過失があり、この過失が本件事故の原因をなすものと認めるべきである。
とすると、被告は被告車の運行供用者として、原告が本件事故により受けた後記損害を賠償しなければならない。
二、原告の損害
(1)受傷部位・程度、後遺症
〔証拠略〕によると、右側頭部陥没骨折、右肩部・右前膊・右腰部および右膝部挫傷の傷害により事故後ただちに中本病院に入院し、消炎剤や鎮静剤の注射あるいは投薬治療を受け、諸症状が軽快したので同年三月二日退院し通院加療していたが、四月二七日ごろ左上膊中央に痛みと指先部にしびれ感が生じ、右上肢全般に脱力感・倦怠感を覚えたので、五月一九日から大阪赤十字病院に転院受診したところ、右脛腕症候群と診断され同月二一日入院し、六月一日前記陥没骨折の整腹術を受け同月一四日に軽快退院し、以後同年夏ごろまで、通院加療したが、現在なお右後頭部に冷たさを感じ、頭がつねにぼんやりしており、夕方にはめまいを感ずることもあり、右手の握力が極度に低下していることが認められる。
(2)数額
(イ)療養費等雑費 六八、九七五円 〔証拠略〕
(ロ)過失利益 計一、二九七、三四四円
〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められる。
(A)原告は以前から京阪神一帯における家庭用医薬品行商(富山の薬売り)に従事しているものであるが、昭和四〇年度の売上げ額は合計一、九二一、三〇〇円であつた。
(B)この種業界では、粗利益は売上額の約三〇パーセントと考えられているが、原告の場合は単独営業で人件費を必要としなかつたので、純利益と粗利益はほぼ一致していた。
(C)原告は事故前単車に乗つて得意先廻りをしていたが、前記受傷および後遺症のため事故後昭和四一年一一月ごろまでほとんど休業状態を続け、同月半ばごろから徐じよに行商ができるようになつたが、右手に力が入らないため単車の運転がしにくいこともあつて、昭和四二年七月ごろから運転免許を取得して自動車で行商をするようになつた。しかし、前記後遺症のため長時間運転に従事すると苦痛を覚える状態で、夕方は早目に帰宅せざるをえないため、事故前に比較し売上げの伸びはにぶつている。
以上認定の事実によると、原告の昭和四〇年度における前記営業上の純利益は約六〇〇、〇〇〇円(一ケ月約五〇、〇〇〇円平均)と認められる。
これに対し原告は、右の純利益は一、一五九、四六三円(一ケ月九〇、〇〇〇円以上)である旨主張するけれども、この点に関する証人山口保夫の証言および原告本人尋問の結果は、前認定の(A)(B)各事実に照らしたやすく信用しがたく、また原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和四〇年一〇月に二、〇〇〇、〇〇〇円で家屋を購入し、その半額は約二年前から貯えた資金で支払つたというけれども、原告は本件事故から約八ケ月後に本件訴訟を提起するにあたり、無資力を理由に法律扶助協会から訴訟扶助を受けたのち、民訴法一一八条による訴訟上の救助を申し立てこれを認められたのであるから(以上の事実は本件記録上明白である)、このような事実に照らすと、原告が自己資金一、〇〇〇、〇〇〇円を出して前記家屋を購入できるだけの生活上のゆとりがあつたとは認めがたい。
そこで、原告の事故前における年間純利益を計算の便宜上六〇〇、〇〇〇円(一ケ月五〇、〇〇〇円)として、左のように過失利益を算定した。
(A)事故当日から昭和四一年九月一一日までの休業損(この間を七ケ月半とする)
三七五、〇〇〇円
(B)昭和四一年九月一二日から三〇年間の分
九二二、三四四円
〔証拠略〕によると、原告は事故前健康な男性であつたことが認められるから、前記年令(事故当時三三才)および職種を考慮すると、本件事故により受傷しなければ六三才ごろまでなお三〇年間にわたり、前認定の純利益を下らない収入を得ることができたものと認めるべきところ、さきに認定した後遺症の程度および現在の稼働状態に照らすと、原告が事故前の労働能力の一〇パーセントを失い、それに応じた営業上の減収をきたしており、この状態がこんごずつと続くと認めても、あながち不当とは考えられない。
そこで、右三〇年間における一〇パーセントの減収総額現価を年利五分の年ごと式ライプニツツ法により算定した。
(算式) 六〇、〇〇〇円×一五・三七二四=九二二、三四四円
付言するに、この種の中間利息控除法として通常用いられるのはホフマン法であるが、同法は貨幣資本が単利法により利殖されることを前提とした控除法であるところ、現代においては銀行預金や郵便貯金にもみられるように、貨幣資本は複利法により利殖されるのが最も普通であるから、ホフマン法はその前提を欠きこれを用いる合理性はなにもないのみならず、あえてこれを用いると控除期間が長期になるにつれ免衝が異常に大きくなり不合理をきたすのである(ジ・ユリスト三六三号五六ページ以下参照)。そこで貨幣資本が複利法により利殖されることを前提とするライプニツツ法を採用した。
(ハ)精神的損害 一、〇〇〇、〇〇〇円
前記受傷部位・程度、後遺症をしんしやくした。
(ニ)弁護士費用 計二三五、〇〇〇円
(A)着手金 三五、〇〇〇円
(B)謝金 二〇〇、〇〇〇円
甲六号証、本件事案の内容、損害額のほか、当裁判所に顕著な大阪弁護士会報酬規定を総合して算定した。
三、原告の過失(過失相殺二〇パーセント)
前認定のように、原告は少量ではあるが飲酒したうえ原告車を運転し、被告車が左側道路から交差点に進入しようとしているのを認めながら、その動静に十分注意することなく漫然進行を続けたのであるから、この点に運転上の過失があり、この過失が本件事故の一因をなしたものと認められるが、その他の点において原告に過失相殺に供すべき過失があつたとは認めがたい。
四、原告の損害賠償請求権(前出損害の各八〇パーセント)
(1)療養費等雑費 五五、一八〇円
(2)逸失利益 一、〇三七、八七五円
(3)慰謝料 五〇〇、〇〇〇円(原告請求額)
(4)弁護士費用 一八八、〇〇〇円
五、てん補 三二〇、〇〇〇円(争いがない)
右はその性質上、前項(1)ないし(3)の請求権の一部に充当されたものと認められる。なお被告主張の治療費等一六〇、〇〇〇円は右の請求権に充当すべきものとは認められない。
六、結論
被告は原告に対し、右残額一、四六一、〇五五円および内金一、三〇一、〇五五円に対する昭和四一年九月二八日から、残金一六〇、〇〇〇円(前記謝金の八〇パーセント)に対する昭和四三年一月一三日(本判決言渡日)から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷水央)